ハッピーハロウィン!

「と、とりっく! おあ! とりーと!」

 ドアを開けたら伊地知先輩が立っていた。真っ赤な顔で、腰に手を当てて、反対の手のひらを見せつけながら。

 わたしたち結束バンドのメンバーではひとりちゃんの奇行が一番目立つけれども、じつは伊地知先輩だって負けず劣らず。まあ、似ているといえば似ていて、ふたりとも余計なことをあれこれ考えすぎた結果、なんで?っていう行動に出ちゃうことがあるだけ。

 それにしたって、今日の伊地知先輩はちょっと度が過ぎていると思う。いくらハロウィンだからって――

「なんでビキニなんですか……?」

「お、おかし、ちょーだい!」

「もう10月も終わりですよ?」

「えっ、と……お、おかし……」

「家でなにしてるんですか?」

「……だから……その……おかし……」

「だいたい、ハロウィンはコスプレ大会じゃないんですよ」

「…………うう……」

「そんなカッコしてたら冷えちゃいますよ。これ、着てください」

 来ていたコートを脱いで先輩をくるむ。夏がいくら暑かったからといっても、10月末になったらさすがに寒い。まして、いまはもう夕方遅くで、日もすっかり暮れて、真っ暗なんだし。

 先輩を押して部屋に上がろうとするんだけど、うつむいていて1歩も動いてくれない。表情をのぞきこもうとしたら、ガバっと顔を上げてくるのでぶつかりそうになる。

 ギリギリで飛び退くと、まだ真っ赤な顔のまま、目にいっぱいの涙をたたえてにらんでくる。

「え? 先輩?」

「喜多ちゃんのばか!」

「え?」

「は、ハロウィンなのに!!」

「はいはい。とりあえず中入って着替えましょうね〜」

「うわ〜〜ん!」

「ご近所迷惑になりますよ〜」

 なぜかガチ泣きの伊地知先輩をコートでくるんで、そそくさと部屋の中に引っ張り込む。先に来ていたリョウ先輩が、ひとりちゃんの肩に顔を埋めて肩を揺らしている。もう耳どころかほっぺも首も手も真っ赤だ。あんまり揺するものだから、肩をつかまれたひとりちゃんの顔色がだんだん土気色になっていく。もう真っ青も真っ白も通り越して、そのうち透明にでもなるんじゃないかしら。さすがに見えないひとりちゃんを探すのはむずかしそうだと思いながら居間を見渡すと、テーブルの上にトランプとチップが散らばっている。一部は床にまで落ちていた。

 ここ数年は毎年、ハロウィンになると、リョウ先輩と伊地知先輩がコスプレを賭けて勝負をしている。今年はトランプだったけど、毎年いろんな種目でたたかっている。

 一応、伊地知先輩の名誉のために言っておくと、犯人はリョウ先輩。衣装を持ってきて伊地知先輩に着せようとして、当然いやがる先輩を煽って勝負にもちこむ。負けた方がコスプレをするってこと。最初は、たしかお酒を飲んでて、伊地知先輩が酔っ払ったところで、リョウ先輩がどこからともなく衣装を持ち出して……っていう流れだったはず。

 そのときの結果はというと、なんと、伊地知先輩があっさり負けた。頭もいいしゲーム得意なのに?って思うでしょ?

 リョウ先輩が勝ったのは、イカサマをしたかららしい。わたしは全然わからなかったんだけど、トランプを混ぜるときに細工をしたらしい。強いんだけどギリギリ負ける手を送り込んで、その1回で伊地知先輩を返り討ちにしたんだとか。

 あのときの伊地知先輩のぽかーんとした表情、あんまりにも見事だったからよく覚えている。あれ以来、なぜか毎年コスプレを賭けたゲームをするのが恒例になっていた。わたしやひとりちゃんが巻き込まれそうになった年もあったし、まあ、せっかくだから参加しようと思ったこともあったんだけど、リョウ先輩がことば巧みに伊地知先輩をたきつけて2人対決に持ち込むのが常だった。そして、なにか細工をしたリョウ先輩の勝利で終わるのもお決まり。もちろん、伊地知先輩だって細工をしてくることくらいとっくに気づいてるんだけど、毎年違う手で仕掛けられて見逃してしまうんだとか。

 どうも、ふだんはリョウ先輩のことを1手も2手も先まで見通せるくせに、こういうときだけ弱いのが伊地知先輩らしいというか。そこまでお話に都合の良い性格じゃなくてもいいのに。

 とはいえ、わかってて受けてあげてるんだから、伊地知先輩もなんだかんだノリが良いし、やさしいのよね。


 とにかく、今年も伊地知先輩が負けて、連敗記録を伸ばしたらしい。おんおん泣いたままの先輩をコートで隠しながら、ひとりちゃんの寝室に向かう。やっぱり。いつものとこに、昼着ていた秋物の服が脱いで畳んである。しゃくりあげる先輩をあやしながら、とりあえず脱がして着せ替える。

 いや……まあ、ホントのこと言うと、ふたりきりならもうちょっと見てたい気持ちもあるんだけど。リョウ先輩が持ってくるコスプレ衣装は、そこらのディスカウントストアで売ってるような、テカテカの安物なんかじゃない。生地もいいしデザインもいい。その上、伊地知先輩にピッタリお似合いの物を持ち込んでくる。今年は小悪魔なビキニで、小柄でかわいらしい先輩にはギャップがすごい。というか、そのギャップが最高になるように仕立てられた、先輩のための一着と言っても間違いないやつ。

 もしかしたらオーダーメイドなのかも……そんなお金どこから……一度、心配になってリョウ先輩に聞いてみたこともある。けれども、リョウ先輩はキザったく話をぼかして教えてくれなかった。

 こんなものを、きっと今日のために、わざわざ手間ひまかけて探してきてくれたんだから、もちろん楽しみたい。みんなでシェアして盛り上がりたいとは思う。いつもだったらそうしているんだけども、今年のこれはキワドすぎる。できればこういう露出系は避けてほしいかな〜とか、少し思ったり。いちおう、先輩と付き合ってるのはわたしなんだし。

 まあ、シェアしたいといっても、イソスタに上げるとか、街に連れ出して他人に見せるとかじゃない。せいぜいリョウ先輩とひとりちゃんと一緒に、それも帰るまでの短時間なんだけど、そうはいってもこれは……先輩のキワドいところがあられもなく見えちゃってる。いくら罰ゲームでも、やっぱりちょっとイヤという思いがしないわけでもない。

 そうこうしているうちに、着替えが終わる。でも先輩は泣き止まない。しかたないからそのまま連れて居間に戻った。リョウ先輩はまだまだ笑いが止まらないみたい。とりあえず、息が止まりそうになってたひとりちゃんを救出してテーブルに向かった。

 ちょっとバイトがあって遅れちゃったけど、今年も4人でハロウィンパーティーができたのは満足。お酒を1本もらってカンパイ。これが、何度目の秋になるんだったか。数えたらとっくに10にはなるだろう。

 ここ数年、ハロウィンの夜は、いつも4人で集まって飲み明かしていた。最初のうちは伊地知先輩のアパートだったり、リョウ先輩のご実家に招かれてだったりしたのが、ひとりちゃんが引っ越してきてからはひとりちゃんのお家を使わせてもらっている。

 あのひとりちゃんが一人ぐらしなんて大丈夫なのか――とみんなで心配していたのは最初の半年くらい。気がつけば、ひとりちゃんはひとりちゃんなりにシングルライフを満喫していた。まあ、やればできる子なのは知ってたから、そんなに驚きもしないんだけど。ひとりちゃんがこのアパートでの暮らしになれて、すっかり落ち着くくらいの時間がたった――そのくらい長いこと4人で、結束バンドとして活動が続けられてる――そう思うと、なんだかしんみりしちゃう。

 今年も、まだ終わりじゃないんだけど、ハロウィンの節目を無事に越えられた。ちょっとさみしくもなるけれども、まだわたしたちの活動は終わらない。来年、再来年、これからずっと続く未来に向かって、またエンジンかけ直してがんばろう!なんて思いながら、きょうの楽しい会を過ごす。


 で。そこで終わってくれたらめでたしめでたしだったのに。

 ハロウィンが終わってから、伊地知先輩とちょっとギクシャクしてしまう。

 最初のうちは何も思わなかったんだけど、時々先輩のことばにトゲがあるような気がしてきた。

 こないだも、別に何でもない話をしてたはず。伊地知先輩のお部屋にお邪魔してくつろいでた時間。ちょっとお買い物でもしたいなと思って、お洋服とかコスメとか、雑誌を見ながら、これ先輩に似合いそうだな~と思って話を振っただけなのに。

 なぜか隣に座っていた先輩は、チラッと誌面を見るなり鼻で笑ってきた。

「ふ~ん?」

「え? なんですか?」

「べつに?」

「えっと……?」

「喜多ちゃんは、そういうののほうが好きなんだね〜」

「え、ええ……?」

「なんでもな~い」

 先輩の言い方がちょっとイジワル。というか、なんかあきらかにスネてる。なんでこんな雑談でそんな反応?と思うんだけど。ちょっと考えてふと思い当たる。たぶん原因は、あのビキニ。でも、理由というかつながりが全然わからない。

 いや、まあ、さすがに、ちょっとかわいそうなことしたかも、と思わなくもない。先輩だって恥ずかしかったんだろうに、頑張って着てくれて、たぶんわたしを待ってて見せてくれたんだと思う。たしかに、ふたりきりだったら、あるいは事前にビキニってわかってたら、もっといいリアクションができたかもしれない。でも、いくらジョーク、その場のノリとはいっても、あんなキワドいもの、あそこで着なくたっていいじゃない。

 先輩があんなことこんなに根に持つなんて珍しい――いや、まあ、先輩って変なこと引きずったり根に持ったりするタイプなんだけと。でも、たかだかハロウィンのコスプレくらいでそんなに? さすがに、ちょっとおかしいんじゃないかしら。

 でも、「それおかしいですよ」なんて言ったらもっとヘソを曲げられてしまう。それとなく謝ってみたり、ご飯をおごってみたり、機嫌を直してもらおうとわたしなりにちょっと頑張ったんだけど、なんだかどれもうまく行かなかった。

 困ってしまったけど、モンモンとしてても解決策を思いつかない。ひとりちゃんにグチったら、どうも、なにか裏事情があるらしく、青ざめてリョウ先輩を連れてきてくれた。

 連れてこられたリョウ先輩はいつもどおり、何も考えていなそうにしてる。でもひとりちゃんにさんざん文句をつけられるからちょっと不満そう。

「リョウさん……ほら、謝らないと……」

「え? なんで?」

「な、なんで、って……リョウさんのせいなんですから……」

「虹夏が自爆しただけでしょ」

「え?」

「なに?」

「自爆ってなんですか?」

「水着にしてくれって、向こうから言ってきたんだもの」

 聞き捨てならない言葉に反応してしまうと、リョウ先輩がざっくり説明――というかネタバラシをしてくれた。9月の末に、伊地知先輩から連絡が来て、もしハロウィンの衣装を用意するならセクシーな水着にしてほしいってお願いされたらしい。なんで急にそんなこと……と思うんだけど、リョウ先輩は、面白そうだからと思って何も聞かずに安請け合いしちゃったらしい。それで当日出てきたのがあれってわけ。

 まあ、たぶん伊地知先輩もわざわざセクシーなのがいいって言い出したくらいだから、あれくらい予想の範囲内というか、むしろ予想のど真ん中だろう。そうだとしたら、やっぱりわからない。

「え? どうしてですか?」

「ええ?」

「だって伊地知先輩から言い出したのに、なんであんなスネてるのか……」

 わたしは純粋に分からなかっただけなんだけど、リョウ先輩が言葉に詰まって、しぶ~い表情でひとりちゃんを見た。ひとりちゃんは、血の気の引いた顔でうつむいている。

 え? これ、わたしが悪いのかしら?

 とまどっていたら、リョウ先輩が巨大なため息をついた。びっくり。というか、さすがにその反応はちょっと傷つくというか……

「あの、リョウ先輩?」

「郁代さあ……」

「えっと……?」

「それ、虹夏に直接聞きに行ったほうがいいんじゃない?」

「え? なんでスネてるのか、ですか?」

「いや……」

「聞いたけど教えてくれなかったんですよ」

「ええ……? そのまんま聞いたってこと?」

「はい」

「あのさあ……」

 またため息。今度はさっきよりも、ひとまわりもふたまわりもおっきなやつ。

 どうしてわたしが悪いみたいな流れになってるんだろう――首をかしげていたら、ひとりちゃんがきゅうっと首をかしげてぼそりとつぶやく。

「き、喜多ちゃん……」

「え? なあに?」

「そ……その……それは……」

「うん?」

「さすがに……虹夏ちゃんが……かわいそう……」

「どうして?」

「ええと……」

 ひとりちゃんが口ごもる。リョウ先輩が3度目のため息をこぼして口を開いた。

「さすがに鈍すぎない?」

「え? わたし、です?」

「うん」

「でも水着って……」

「虹夏、あんな水着、着ないでしょ」

「そりゃあ、まあ……」

「それなのに自分から――海に行くでもないのに頼んできたんだって」

「ええっと、そうですね?」

「なんのためだと思う?」

「え……ハロウィンのため、ですよね?」

「ちがうって」

「え、じゃあ……?」

「き、喜多ちゃんの……ため……です、よ……」

 横から割り込まれて振り返る。またまたびっくり。ひとりちゃんが真っ青な表情をしながらじとっとわたしを見ている。リョウ先輩も首を振って大きくうなずく。

「え、わたし?」

「喜多ちゃんに、見てほしいからですよ……」

「見たじゃない」

「見て? 郁代は、それで終わりなの?」

 リョウ先輩がじれったそうに言う。言われて少し考える。

 まあ、確かに見た。キワドすぎると思ってすぐ隠しちゃったけど。ふたりきりの時だったらもっと見たいのにとか、思ったのもホントだけどね。あの場はそうじゃなかったんだし。

 ん? でも、伊地知先輩が、わざわざあんなものをわたしのためにリクエストしたってことは、やっぱり、もっとじっくり見てほしかったとか? そんな癖、あったような気がしないんだけど――そう思って首をかしげたら、リョウ先輩がくるりときびすを返して背中を向けてしまった。

「ぼっち。行こ」

「で……でも……」

「これ、無理」

「そ、そんな……」

「とりあえずさあ――」

 階段に足をかけたリョウ先輩があきれを通り越して感情の消え去ったつめた~い視線を投げてくる。その原因がわたしじゃなかったら、カッコいいって思えるんだけども……

「――さすがに、虹夏にちゃんと謝って」

「えっと……はい」

「あと、わかんないんだったらわかりませんって言わないと。たぶん、元に戻らないから」

「そうですね……」

「虹夏も虹夏だけど……」

 ブツブツ文句を言いながら、リョウ先輩が出て行ってしまう。所在なさげにオロオロしていたひとりちゃんも、しばらくするとくら~い表情で出て行ってしまった。


 結局、わかったようなわからないような――いや、大本の原因は全然分からないんだけど……とにかく理由がわからないからやることは一つしか無くなった。

 その日のうちに伊地知先輩のお部屋にお邪魔して深々頭を下げる。

「ごめんなさい」

 先輩はクッションを抱きしめたまま、ムスッとした表情で黙っていた。

「わたし、ニブすぎて全然わからなくて……」

「……そうだね」

「せっかくがんばってくれたのに。冷たくあしらってすみません!」

「……いいよ。あたしもわかりにくかったし……」

「はい?」

「その、最近喜多ちゃんと一緒にいる時間が少なくて……忙しかったのもあるけど」

「え? ほとんど毎日会ってるじゃないですか」

「そ、そうだけど……」

 先輩がうっすら涙を溜めたまま、顔を赤くする。

 その反応にはさすがに見覚えがある。というか、一緒にいる時間が少ないなんていうのは全然事実じゃないんだから。そもそも、10年前は違ったけど、いま、わたしと伊地知先輩のお部屋は隣同士――同棲してるんだから。

「えっと……伊地知先輩、もしかして……?」

「……なに?」

「欲求不満なんですか……?」

「よっ……!」

「確かに夏以降、ちょっとドタバタしてましたけど……」

 真っ赤になる伊地知先輩を前に、わたしはもっと迷ってしまった。まあ、この夏からこの秋、ライブの予定が多くて忙しかったのは本当だし。わたしもバイト先が変わってスケジュールが動いたっていうのもあった。それで、ちょっと伊地知先輩と会う機会が減ったし、お互いの時間が合わなくて、夜のことまであんまり考えてなかったのは事実なんだけど。

 でも――世の中の平均がどのくらいか知らないけど――

「少なくても週1回くらいはしてるじゃないですか」

「わっ、悪い!?」

「え、いや……?」

「だっ……だいたい! 喜多ちゃんが悪いんだよっ!」

「え?」

「お出かけの予定はいっぱい立ててくれるけど! それだって中々いい雰囲気にならないし! せっかくいい雰囲気だなと思っても全然気づいてくれないし!」

「す、すみません?」

「さみしいな~と思っても! 喜多ちゃんは全然その手の話題、してこないし!」

「それは、まあ……」

「いっつもあたしからじゃヘンかなと思ってガマンしてたの! あの日も頑張ったのに冷たいし! 11月になって落ち着いたと思ったのに!!」

「それはごめんなさい」

「やっと気づいてくれてもものたりないし! こないだなんか先に満足してシャワー浴びに行っちゃったし!」

「え?」

「今週だって、予定もなくって、帰りが早いのに! 毎日毎日空振りで! 全然乗ってこないしっ……!」

「えっと、それって……?」

「なに!? ……あっ……」

 勢いよくまくしたてていた先輩が、顔を一層真っ赤にして固まる。

「あ……えっと……その…………」

「先輩?」

「だ、だからっ……!! そのっ……!!」

 先輩の言い方が、恥ずかしいのかなんなのかわからないけどとにかく遠回しでわかりにくい。でもまとめると――?

「毎日足腰立たなくなるまで抱き潰されたかった……てこと、ですか?」

「だっ……そ、そうは言ってないでしょ!?」

「毎日はちょっと……わたしの予定もありますし……」

「ひとの話を聞け!!」

 先輩がクッションを振り回す。振り回すんだけど恥ずかしがってるせいでねらいがめちゃくちゃ。ひょいと避けてサッと奪い取る。

 子どもみたいにしょぼくれて――まあ、顔は真っ赤だし、言ってる内容は全然子どもじゃないんだけど、とにかくスネにスネきってる先輩の横に座る。クッションを横に置いて、そっと肩を抱く。

「ね、先輩?」

「……」

「さみしい思いさせてすみません」

「……ん」

「わたし、ニブくって全然気づかなくって」

「……ん!」

「でも、いまはちゃんとわかりました」

「……ん?」

「だから――」

 先輩を横からギュッと抱きしめ耳元でささやく。

 先輩は、そっぽを向いたまま、耳まで真っ赤に染めながら、小さく、コクンとうなづいた。